News 「変動型」の住宅ローンがオトクな時代は終わった…金利上昇時代に覚悟すべき「返済額1300万円増」という未来
低金利を売りにしてきた住宅ローンの金利がじわじわと上がっている。金融教育家の上原千華子さんは「変動型で借入残高が4000万円、返済期間35年のローンを組んでいるケースでは、金利が0.5%上がると総返済額が約380万円、1.5%上がると約1370万円も膨れ上がる。固定型への借り換えや、資産運用で返済額アップに備える必要がある」という――。
■日本人の77%が選んでいる「変動型」 「住宅ローンは変動金利のままで大丈夫!」ってあなたもそう思っていませんか?
住宅支援機構の「住宅ローン利用者調査(2024年10月調査)」によると、変動金利を利用している人は77.4%。低金利で返済額を抑えられるメリットから、多くの人が変動型を選んでいます。 しかし日銀の利上げを受けて、日本の住宅ローン金利もじわじわと上がり始めています。大手5銀行は長期金利に連動する「10年固定型」の金利を一斉に引き上げており、4月からは変動型も0.25%程度引き上げる見通しです。 そこで今回は、「金利が上がると、毎月の返済額はどのくらい増えるのか」「変動金利のままでも問題ないのか」といった疑問に答えながら、金利上昇で損をしないための方法を詳しく解説します。
■借りる人を守るための2つのルール 一般的に、変動金利型の住宅ローンには「5年ルール」「125%ルール」という仕組みがあります。「5年ルール」では、金利が上昇しても、5年間は毎月の返済額が変わりません。しかし利息については、上がった利率で計算されるため、利息額が増えて、その分返済する元金が少なくなります。 「125%ルール」は、金利が上昇しても、現在の返済額の125%を超えないようにする措置です。例えば、毎月10万円返済している人は、上限が12万5000円となります。このルールのおかげで、急激な負担増は避けられます。 しかし、ローン完済までの総支払額は増える可能性があります。さらに金利が急上昇すると「未払い利息」が発生し、完済が遠のく可能性もあるでしょう。 もし今、住宅ローン金利が上昇すると、月々の支払いと支払い総額はどう変わるのでしょうか? ケース別のシミュレーションをみてみましょう。
■金利が1.5%上昇すると、総支払い額は…
【前提条件】借入残高4000万円、返済期間35年、現在の適用利率0.4%(変動)、元利均等型、ボーナス返済なし、2025年4月から適用利率が以下の通り上昇し、5年ルール適用 現状の金利のままだと、月の返済額は10万2000円、総支払額は4287万円ですが、0.5%上昇するとそれぞれ11万3000円と4673万円、1.0%上昇すると12万4000円と5092万円と負担は増え、1.5%上昇した場合は2万6000円増の12万8000円、約1300万円増の5660〜5670万円にまで膨れ上がります。 日銀は、経済・金融情勢の先行きや、物価上昇・賃上げの動きなどを総合的に判断し、政策金利を決定しています。また、私たちの生活に急激な変化が起こらないよう配慮しています。ただ、「少しずつ上がるだろう」とのんびり構えていると、思わぬ負担増に直面するかもしれません。 人は未来のリスクを過小評価するものです。「これまで大丈夫だったから、これからも大丈夫だろう」といった正常バイアスや、「変えるのが面倒だから、今のままでいいや」という現状維持バイアスがかかるためです。 現在、すでに住宅ローンの支払いがギリギリの方は要注意です。まずは、今のうちにシミュレーションし、どのくらい返済額が増える可能性があるのか、しっかり把握しておきましょう。 ■「借り換え」を判断する3つのポイント それでは、5年後に損をしないための具体策を3つ考えていきましょう。
① 固定金利への借り換え 「変動金利はリスクがあるので、固定金利にしようかな」と思う人も多いでしょう。固定金利は、将来の返済額を見える化できる安心感があります。しかし、固定金利は変動金利より1〜2%ほど高めに設定されており、借り換えには30万〜100万円程度の費用が発生します。 ———- 一般的な借り換え判断のポイント ・借り換え前後の金利差が年1%以上 ・住宅ローンの残高が1000万円以上 ・残りの返済期間が10年以上 ———- この条件をベースに単純計算すると、将来、金利が2〜3%くらい上がるだろうと思うなら、変動金利から固定金利への借り換えを検討してもよいかもしれません。 将来どのくらい金利が上がるのかは、誰にも分かりません。金利の上昇幅をウォッチしながら、慎重に借り換えを検討する方が賢明でしょう。
■資産運用もローン返済も焦ってはいけない
② 資産運用で備える 「ローンを返済しながら資産運用?」と思うかもしれませんが、とても合理的な戦略です。変動金利で浮いたお金を長期の運用に回して、家計改善を目指します。住宅ローンは長期の借金なので、長期運用との相性がよいですね。 変動金利で借り続けるのか、固定金利へ借り換えるか 余剰資金で繰上げ返済をするか、資産運用に回すのか などの選択肢を増やすことができるでしょう。 1000万円を10年間、3%で運用すれば約1340万円、5%なら1630万円、7%では1970万円となります。これはあくまでも試算で、元本割れリスクには注意が必要です。一方、投資には複利効果があるため、長期で継続すれば、効率よく資産を増やせる可能性があります。 また、資産運用はインフレ対策としても有効です。物価が上がれば、将来的に返済するお金の実質的価値が下がります。そのため、物価上昇率が住宅ローン金利より高ければ、住宅ローンはゆっくり返済するほうがよいという考えもあります。 資産運用にはリスクがあるため、あくまでも余裕資金で行いましょう。また、10年以内に使う資金は、定期預金か個人国債などで安定運用をしましょう。
■返済額の増加分を副業収入で賄う
③ 収入アップで備える 最も確実な方法は「収入を増やすこと」です。大手企業が次々と賃上げを発表しており、恩恵を受ける人もいるでしょう。自分には当てはまらないという方は、一緒に収入アップの方法を考えましょう。 例えば在宅副業です。Webライティングやコンサル業、ECサイトでの販売、SNSの運用代行などがあります。まずは、月数万円の副収入を目指してみましょう。収入としては少ないと感じるかもしれませんが、図表2のシミュレーションのように、月々の支払額が1〜2万円アップだとしたら、十分ではないでしょうか。副業・起業の実績作りにもなりますね。 もっと大きく収入を増やしたい方は、転職や昇給を狙うのも手です。転職市場の動向を調べるなど、今できることをひとつずつ始めていきましょう。
■繰り上げ返済すべきでない家庭も そのほかにできることを2つ紹介します。
① 繰り上げ返済 住宅ローンの返済負担を軽くする方法として、繰り上げ返済があります。 ———- 繰り上げ返済のメリット ・総利息額を減らせる:変動金利が上昇すると、繰り上げ返済の効果が大きくなる ・家計の安定感が増す:住宅ローンの負担が軽くなり、将来の不安が減る 繰り上げ返済のデメリット ・手元資金が減る:繰り上げ返済で貯蓄が減りすぎると、急な出費に対応できない ・投資の機会損失:資産運用に回したほうがリターンが大きい場合も ———- 生活防衛資金(生活費の6カ月〜1年分)を確保したうえで、繰り上げ返済とライフプラン、資産運用のバランスを取ることが重要です。 例えば、10年以内に子どもの教育費でまとまった資金が必要なのに、繰り上げ返済をしてしまい、教育資金が足りなくなったら、元も子もありませんよね。変動金利が急上昇した場合は、早めに返済したほうが得になりますので、余裕資金がある人は、シミュレーションをした上で、繰り上げ返済も検討しましょう。
■いっそ家を売ったほうが得か、それとも損か?
② 家を売却 みなさんの中には、「いざとなったら家を売ればいい」と思う人もいるかもしれません。確かに住宅は資産として売却できます。しかし「売りたくても売れない」「思ったより安くしか売れない」リスクを忘れてはいけません。 ———- 自宅売却3つのリスク ・売却には時間がかかる(数カ月〜1年以上) ・売却価格がローン残債を下回るオーバーローンのリスクがある ・エリアによっては買い手がつかない可能性も ———- 売却は、市場価値・ローン残債・今後のライフプランを総合的に判断することが大切です。 ———-
売却を判断するためのチェックリスト
・今の住宅価格は、購入時よりも高いか安いか?
・住宅ローン残債より高く売れるか?
・今後、家族が増える・減る予定はあるか?
・固定資産税・維持費を負担に感じているかどうか? ———-
■安定した返済計画を立てるなら固定型 ここまではすでに住宅ローンを組んでいることを前提に解説してきました。これから住宅ローンを組む人はどうすればいいでしょうか。 金利がある時代では、固定金利・変動金利の選択は悩ましい問題です。どちらを選ぶべきか、判断基準を整理しておきましょう。 ———- 固定金利が向いている人 ・長期的に安定した返済計画を立てたい ・金利上昇が不安 ・優遇金利が適用され、魅力的な水準である場合 変動金利が向いている人 ・なるべく低い金利で借りたい ・金利上昇に備えて、資産運用や副収入を確保できる ・将来的に借り換えの選択肢を持ちたい ———- どちらを選ぶにしても、金利変動リスクと総支払額を理解しておきましょう。 「金利が上がるかどうか」は誰にも予測できません。しかし、対策を知って行動すれば、5年後・10年後の家計を守ることができます。 未来の安心は、今の行動が作ります。住宅ローンは人生の中でも難しいテーマではありますが、本記事を参考にしながら、できることから始めていきましょう。
(引用)
金融教育家 上原 千華 (引用)