News 借地の立ち退き要求への対抗策|正当な立ち退き料の相場と請求方法
目次
まずはじめに・・
長年住み慣れた我が家。その土地が借地であるとき、ある日突然地主(底地権者)から「土地を返してほしい」「立ち退いてほしい」と要求されたら、誰しも大きな不安と混乱に陥るでしょう。
「このまま家を失ってしまうのか?」「地主の言う通りにするしかないのか?」「もし立ち退くなら、十分な補償は受けられるのか?」
そんな疑問や不安を抱えている方もご安心ください。借地上の建物の持ち主(借地権者)は、「借地借家法」という法律で強く保護されており、地主の一方的な要求に無条件で応じる必要はありません。
この記事では、借地権の専門家であるプロの私たちが、地主からの立ち退き要求にどう対抗すればよいのか、そして、やむを得ず立ち退く場合に請求できる正当な立ち退き料の相場や交渉方法について、法律の知識がない方にも分かりやすく解説します。
あなたの権利を守り、最善の解決策を見つけるための一助となれば幸いです。
地主の立ち退き要求は拒否できる?
結論から申し上げますと、**地主からの立ち退き要求は、法的に正当な理由がなければ拒否できます。**借地人を保護する「借地借家法」では、地主が契約の更新を拒絶したり、解約を申し入れたりするためには「正当事由」が必要であると定められているからです。
立ち退き要求を拒否できる「正当事由」
**「正当事由」**とは、地主が立ち退きを要求するための、社会通念上もっともだと認められる理由のことです。これが認められるかどうかは、以下の要素を総合的に考慮して判断されます。
- 地主と借地人が土地を必要とする事情 地主自身がそこに住む必要がある、事業で使わなければならないといった切実な理由があるか。一方で、借地人が生活の基盤を失うことの不利益も考慮されます。
- 借地に関するこれまでの経緯 契約期間、権利金や更新料の支払いの有無、地代の支払いが滞りなく行われてきたかなど、これまでの両者の関係性が評価されます。
- 土地の利用状況 建物が老朽化しているか、土地が有効に利用されているかといった点が考慮されます。
- 立ち退き料の申し出 地主が立ち退きの条件として、借地人に対して財産上の給付(立ち退き料)を申し出ているか。立ち退き料の提供は、あくまで正当事由を補強する一要素であり、高額な立ち退き料を提示すれば必ず立ち退きが認められるわけではありません。
裁判では、これらの事情を総合的に見て、地主側の事情が借地人側の事情を上回ると判断された場合にのみ、正当事由が認められます。借地人の生活を守るという観点から、正当事由が認められるハードルは非常に高いのが実情です。
旧借地権と普通借地権の権利の違い
あなたの借地権がいつ設定されたかによって、権利の強さが異なります。
- 旧借地権 1992年8月1日より前に設定された借地権です。借地人にとって非常に有利な権利で、一度契約すると半永久的に更新できるとさえ言われています。地主からの更新拒絶は極めて困難で、正当事由の判断もより厳格になります。
- 普通借地権 1992年8月1日以降に施行された借地借家法に基づく借地権です。こちらも契約更新が原則ですが、地主側に正当事由があれば更新が拒絶される可能性があります。
長年住んでいる場合、旧借地権である可能性が高いでしょう。契約書の日付を確認してみてください。
居住権を根拠に立ち退きを拒否する
「居住権があるから立ち退かない」という主張を聞いたことがあるかもしれません。厳密には「居住権」という法律上の権利はありませんが、これは一般的に「借地借家法によって保護された、その場所に住み続ける権利」を指します。
つまり、借地上の持ち家に住んでいるという事実は、立ち退きを拒否する際の強力な根拠となります。地主の都合だけで、あなたの生活基盤を簡単に奪うことはできないのです。
契約書なしでも借地権は主張可能
「古い契約で、契約書が見当たらない…」という場合でも心配はいりません。契約書がなくても、長年にわたり地代を支払ってきた事実があれば、借地契約は有効に成立しているとみなされます。
地代の振込記録や領収書など、地代を支払っていた証拠は大切に保管しておきましょう。これらは、万が一のトラブルの際にあなたの権利を証明する重要な材料となります。
借地の立ち退き料の相場と計算方法
もし、地主の提示する条件に納得し、立ち退きに応じるという選択をする場合、あなたは正当な補償として「立ち退き料」を請求する権利があります。立ち退き料は、単なる引っ越し代ではなく、あなたが失う権利や財産に対する総合的な補償です。
立ち退き料の相場は借地権価格の6〜7割
立ち退き料に法的な計算式はありませんが、実務上の相場は存在します。一般的に、立ち退き料の主な部分は「借地権価格」を基準に算定されます。
借地権価格は、その土地の更地価格に「借地権割合」を掛けて算出します。借地権割合は国税庁の路線価図で確認でき、住宅地では更地価格の**60%~70%**に設定されていることが多いです。
(参考:国税庁 財産評価基準書 路線価図・評価倍率表 https://www.rosenka.nta.go.jp/)
立ち退き料は、この借地権価格に、後述する移転費用などを加味して交渉することになります。地主側の正当事由が弱いほど、借地権価格に近い、あるいはそれ以上の立ち退き料が認められる傾向にあります。
立ち退き料を構成する具体的な内訳
立ち退き料は、主に以下の要素から構成されます。これらを積み上げて、請求する金額の根拠とします。
- 借地権の対価(借地権価格) 土地を使用する権利(借地権)を失うことに対する補償です。立ち退き料の中で最も大きなウェイトを占めます。
- 建物移転費用 新しい住居を探すための費用(仲介手数料など)、引っ越し費用、新しい住居の契約金(敷金・礼金)など、移転に伴って発生する実費です。
- 営業補償 借地上の建物で事業を営んでいた場合に、移転によって生じる休業期間中の利益減少や、得意先を失うことによる損失などに対する補償です。
- 迷惑料(慰謝料) 長年住み慣れた地域やコミュニティを離れることによる精神的苦痛や、新しい生活環境に適応するための負担に対する補償です。
【具体例】立ち退き料の計算シミュレーション
具体的なイメージを持つために、簡単なシミュレーションをしてみましょう。
- 土地の更地価格:4,000万円
- 借地権割合:60%
- 移転費用など(引っ越し代、新居の契約金など):200万円
この場合、立ち退き料の目安は以下のように考えられます。
- 借地権価格を計算する 4,000万円(更地価格) × 60%(借地権割合) = 2,400万円
- その他の費用を加算する 2,400万円(借地権価格) + 200万円(移転費用など) = 2,600万円
この2,600万円が、地主と交渉する際の基準となる金額の一例です。ただし、これはあくまで単純なモデルケースであり、実際の金額は地主の正当事由の強弱や交渉次第で大きく変動します。
立ち退き料にかかる税金と節税方法
立ち退き料を受け取った場合、税金がかかる可能性があります。所得税法上、立ち退き料はその内容によって所得区分が異なります。
- 譲渡所得 借地権の対価として受け取った部分は、資産の譲渡とみなされ「譲渡所得」になります。
- 事業所得 営業補償として受け取った部分は「事業所得」の収入となります。
- 一時所得 移転費用や迷惑料に充てる部分は「一時所得」とみなされることが多いです。
特に金額が大きくなる譲渡所得については、**公共事業による立ち退きなどの要件を満たせば「収用交換等の場合の5,000万円特別控除」という特例が適用できる場合があります。**税金の計算は非常に複雑なため、立ち退き料を受け取る際は、必ず税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
地主と有利に交渉を進める4ステップ
地主から立ち退きを要求されたら、冷静に、そして戦略的に対応することが重要です。感情的になってしまうと、不利な条件で合意してしまうことにもなりかねません。ここでは、交渉を有利に進めるための具体的な4つのステップをご紹介します。
ステップ1:内容証明郵便で意思を伝える
地主から口頭や普通の手紙で立ち退きを要求された場合、まず安易に同意の返事をしないことが鉄則です。そして、こちらの意思を明確に、かつ証拠が残る形で伝えるために「内容証明郵便」を活用しましょう。
内容証明郵便を送ることで、「いつ、誰が、どのような内容の文書を送ったか」を郵便局が証明してくれます。これにより、後々の「言った・言わない」のトラブルを防ぐことができます。
文面には、「貴殿からの立ち退き要求には正当事由が認められないため、現時点では応じかねます」といったように、立ち退きを拒否する明確な意思を記載します。
ステップ2:交渉材料を収集・準備する
交渉のテーブルに着く前に、自分の主張を裏付けるための材料をできる限り集めておきましょう。準備がしっかりしているほど、交渉を有利に進めることができます。
- 借地契約書(なければ不要)
- 地代の支払い記録(通帳の記録、領収書など)
- 建物の登記事項証明書(登記簿謄本)
- 固定資産税・都市計画税の納税通知書
- 自分の生活状況を客観的に示す資料(高齢である、持病がある、家族に要介護者がいるなど)
- 周辺の家賃相場や土地の価格がわかる資料
これらの資料は、弁護士に相談する際にも非常に役立ちます。
ステップ3:弁護士を交えて直接交渉する
当事者同士での話し合いは、どうしても感情的になりがちで、交渉が進まないケースが多くあります。そこで、法律の専門家である弁護士に代理人として交渉を依頼することを強くおすすめします。
弁護士が間に入ることで、以下のようなメリットがあります。
- 法的な根拠に基づいた冷静な交渉ができる
- 相手方に本気度が伝わり、不当な要求をしてこなくなる
- 適正な立ち退き料の算定や、有利な条件での交渉が期待できる
- 交渉の窓口になってもらうことで、精神的な負担が大幅に軽減される
ステップ4:最終手段としての調停・訴訟
当事者間の交渉で合意に至らない場合、法的な手続きに移行することになります。しかし、いきなり裁判(訴訟)になるわけではありません。
まずは、裁判所の調停委員が間に入って話し合いでの解決を目指す「民事調停」を申し立てるのが一般的です。調停は訴訟に比べて費用が安く、手続きも簡易で、円満な解決が期待できます。
この調停でも話がまとまらなければ、最終手段として「訴訟」を提起し、裁判官に法的な判断を仰ぐことになります。訴訟は時間も費用もかかるため、できる限り交渉や調停の段階で解決を目指すのが賢明です。
借地権の売却という選択肢とデメリット
立ち退き交渉が難航する場合や、これを機に住み替えを考える場合には、「借地権を売却する」という選択肢もあります。売却には、地主に買い取ってもらう方法と、第三者に売却する方法の2つがあります。
地主への売却(買取請求)のメリット
借地権を地主に買い取ってもらうことは、双方にとってメリットのある解決策となり得ます。
- スムーズに話が進みやすい 第三者が介在しないため、条件さえ合えば迅速に契約がまとまる可能性があります。
- 地主の承諾が不要 売却相手が地主自身なので、後述する第三者への売却のような承諾や承諾料は必要ありません。
- トラブルを円満に解決できる 立ち退きで争うのではなく、売買という形で関係を清算できるため、感情的なしこりを残さずに済みます。
地主側にも、底地と借地権を一体化させて完全な所有権のある土地として活用・売却できるというメリットがあるため、交渉に応じてくれる可能性は十分にあります。
第三者への売却のデメリットと地主の承諾
借地権は、地主以外の第三者に売却することも可能です。しかし、これには大きなハードルとデメリットが伴います。
最大のポイントは、借地権を第三者に売却(譲渡)するには、原則として地主の承諾が必要であるという点です。
デメリット
- 地主の承諾が得られないリスク 地主が「知らない人に土地を使われたくない」などの理由で承諾を拒否することがあり、これが借地権売却トラブルの典型例です。
- 売却承諾料(名義書換料)の発生 承諾を得る見返りとして、地主に「売却承諾料」を支払うのが一般的です。
- 買い手が見つかりにくい 借地権付き建物は権利関係が複雑なため、一般の不動産市場では敬遠されがちで、買い手がなかなか見つからないことがあります。
売却承諾料の相場とトラブル事例
売却承諾料とは、借地権の売却を地主に認めてもらうために支払う金銭のことです。その相場は、一般的に借地権価格の10%程度とされています。
しかし、この承諾料をめぐって、「法外な金額を要求された」「理由もなく承諾を拒否された」といったトラブルが後を絶ちません。
もし地主が正当な理由なく承諾を拒否したり、高すぎる承諾料を要求したりする場合は、裁判所に「借地非訟」という手続きを申し立てることができます。これにより、裁判所が地主の承諾に代わる許可を与えてくれる可能性があります。
【事例別】借地権のよくあるトラブル
ここでは、借地権をめぐって実際に起こりがちなトラブルの事例と、その対処法のポイントをまとめました。ご自身の状況と照らし合わせてみてください。
事例1:一方的な立ち退き・更新拒絶
「老朽化したから建て替えたい」「息子夫婦を住まわせたい」といった地主の都合で、一方的に立ち退きや契約の更新拒絶を迫られるケースです。
対処法 これまで解説した通り、地主の要求には「正当事由」が必要です。まずは慌てずに、弁護士などの専門家に相談し、相手の主張に法的な根拠があるかを確認しましょう。安易に立ち退きを約束する書面にサインしてはいけません。
事例2:地代や更新料の値上げ請求
周辺の地価が上がったことなどを理由に、地主が地代や更新料の大幅な値上げを要求してくるケースです。
対処法 値上げ要求が、近隣の相場や固定資産税の上昇率などと比べて**不相当に高額である場合は、拒否することができます。**話し合いで合意できない場合は、最終的に調停や訴訟で適正な金額を裁判所に決めてもらうことになります。
事例3:地主による底地の売却
地主が、あなたが建物を建てて住んでいる土地(底地)を、不動産業者などの第三者に売却してしまうケースです。
対処法 **地主が変わっても、あなたの借地権がなくなることはありません。**借地上の建物があなた名義で登記されていれば、新しい地主に対しても借地権を主張できます(これを「対抗力」といいます)。ただし、新しい地主が立ち退き交渉に積極的な業者である場合も多いため、地主が変わった際は速やかに専門家へ相談することをおすすめします。
事例4:相続で発生した借地権トラブル
地主が亡くなり、土地を相続した子供たちが「土地を売りたいから出ていってほしい」と要求してくるケースです。
対処法 相続によって地主が変わった場合でも、借地契約の内容はそのまま引き継がれます。したがって、相続人からの立ち退き要求にも「正当事由」が必要です。先代の地主とは良好な関係でも、相続を機にトラブルに発展することは少なくないため、注意が必要です。
借地権問題に強い弁護士の選び方
借地権や立ち退きの問題は、法律の知識だけでなく、交渉の経験も必要となる複雑な分野です。一人で抱え込まず、早い段階で専門家である弁護士に相談することが、最善の解決への一番の近道です。
しかし、弁護士なら誰でも良いというわけではありません。ここでは、信頼できる弁護士を選ぶための3つのポイントをご紹介します。
不動産・借地権問題の実績を確認する
弁護士にはそれぞれ得意分野があります。離婚問題に強い弁護士もいれば、企業法務に強い弁護士もいます。借地権の問題を相談するなら、不動産トラブル、特に借地・借家問題の解決実績が豊富な弁護士を選ぶことが不可欠です。
弁護士事務所のウェブサイトを見て、「取扱分野」や「解決事例」のページに、借地権や立ち退き交渉に関する記載が豊富にあるかを確認しましょう。
料金体系が明確で分かりやすいか
弁護士に依頼する上で、費用は最も気になる点の一つでしょう。相談料、着手金、報酬金などの料金体系がウェブサイトに明記されているか、最初の相談時に分かりやすく説明してくれるかは、信頼できる事務所を見極める重要なポイントです。
最近では「初回相談無料」の事務所も多くありますので、まずはそうしたサービスを利用して、気軽に話を聞いてみるのがおすすめです。
無料相談を活用して相性を判断する
最終的に交渉や手続きを任せる弁護士とは、長い付き合いになる可能性もあります。そのため、知識や実績だけでなく、あなたとの相性も非常に重要です。
無料相談などを利用して、実際に弁護士と話をしてみてください。
- こちらの話を親身になって聞いてくれるか?
- 専門用語を使わず、分かりやすく説明してくれるか?
- 今後の見通しやリスクについても正直に話してくれるか?
これらの点を確認し、「この先生なら信頼して任せられる」と思える弁護士を見つけることが、納得のいく解決につながります。
まとめ
今回は、地主から借地の立ち退きを要求された際の対抗策や、立ち退き料の請求方法について詳しく解説しました。
最後に、この記事の重要なポイントを振り返ります。
- 地主からの一方的な立ち退き要求は、「正当事由」がなければ拒否できる。
- 立ち退きに応じる場合は、借地権価格などを基にした正当な「立ち退き料」を請求する権利がある。
- 交渉を有利に進めるには、内容証明郵便での意思表示や、弁護士を交えた交渉が有効。
- 立ち退き以外の解決策として、地主や第三者への「借地権売却」という選択肢もある。
- 借地権トラブルは複雑なため、一人で悩まず、早めに不動産問題に強い弁護士に相談することが何よりも重要。
突然の立ち退き要求は、あなたの平穏な生活を脅かす一大事です。しかし、あなたには法律で守られた強い権利があります。正しい知識を身につけ、専門家の力を借りながら、冷静に対処していきましょう。この記事が、あなたの不安を少しでも和らげ、次の一歩を踏み出すための助けとなることを心から願っています。