News 実家じまいと墓じまいの教科書|費用・相続・手続きの全手順について
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実家じまいと墓じまいの教科書|費用・相続・手続きの全手順..
実家じまいと墓じまいの教科書|費用・相続・手続きの全手順
「親が高齢になり、実家が空き家になりそう…」「お墓の管理が難しくなってきた…」
50代、60代になると、多くの方がこのような悩みに直面します。将来、子どもたちに負担をかけたくないという思いから「実家じまい」や「墓じまい」を考え始めるものの、何から手をつければ良いのか、費用はどれくらいかかるのか、親族とどう話を進めれば良いのか分からず、途方に暮れてしまう方も少なくありません。
この記事は、そんなあなたのための**「実家じまい・墓じまいの教科書」**です。
複雑な手続きや費用、相続の問題まで、全体の流れを網羅的に解説します。この記事を読めば、漠然とした不安が解消され、具体的な第一歩を踏み出すための知識が身につくはずです。
実家じまい・墓じまいの全体像と費用
まず、実家じまいと墓じまいを成功させるために、全体の流れと費用の相場を把握することが重要です。計画を立てずに進めてしまうと、思わぬ費用が発生したり、親族とのトラブルに発展したりする可能性があります。
何から始める?全体の流れと手順
実家じまいと墓じまいは、以下のステップで進めるのが一般的です。**最も重要なのは、最初の「親族との話し合い」**です。
- 親族との話し合いと合意形成 なぜ実家じまい・墓じまいが必要なのか、費用は誰がどのように負担するのかを、兄弟姉妹や関係者全員で話し合います。
- 現状の把握と情報収集 実家の状態(家の価値、荷物の量)やお墓の状況(管理者、宗旨宗派)を確認し、必要な手続きや費用について情報収集を始めます。
- 専門家への相談と見積もり 必要に応じて、不動産会社や司法書士、石材店などの専門家に相談し、具体的な費用を見積もってもらいます。
- 【家じまい】実家の片付け・処分 遺品整理、家の解体または売却を進めます。
- 【墓じまい】お墓の整理 新しい納骨先を決め、改葬許可申請などの行政手続きを経て、墓石を撤去します。
- 各種手続きの完了 公共料金の解約や、相続に関する手続きなどをすべて完了させます。
実家じまいの費用総額の相場
実家じまいの費用は、家の状況や片付けの方法によって大きく変動しますが、総額で50万円~1,000万円以上かかることもあります。主な内訳は以下の通りです。
- 遺品整理・不用品処分費用 30万円~100万円。家の広さや荷物の量によって変わります。
- 建物の解体費用 100万円~300万円。木造30坪の家の場合の目安です。アスベスト除去などが必要な場合は追加費用がかかります。
- 不動産の売却にかかる費用 仲介手数料(売却価格の約3%+6万円)、印紙税、登記費用など。
- その他 測量費、仏壇の供養・処分費、行政手続きの費用など。
H3.墓じまいの費用総額の相場
墓じまいの費用は、お寺との関係や新しい納骨先の種類によって変わりますが、総額で30万円~300万円程度が一般的です。
- お寺に支払う費用 閉眼供養のお布施(3万円~10万円)、離檀料(5万円~20万円が相場ですが、決まりはありません)。
- 墓石の撤去・処分費用 1㎡あたり10万円~15万円が目安です。
- 行政手続きの費用 数千円程度(書類の発行手数料など)。
- 新しい納骨先の費用 合祀墓なら5万円~、納骨堂なら30万円~、樹木葬なら**20万円~**と、種類によって大きく異なります。
H3.始める前の心構えと親族への相談
実家じまいや墓じまいは、単なる手続きではありません。家族や先祖との思い出を整理する大切な儀式です。
始める前に、**「なぜ、今これを行う必要があるのか?」**を自分自身で再確認しましょう。そして、その思いを正直に親族、特に兄弟姉妹に伝えることが不可欠です。お金のこと、手続きのこと、それぞれの思いをオープンに話し合う場を設け、全員が納得した上で進めることが、後のトラブルを防ぐ最大のポイントです。
【家じまい】実家の片付け手順と費用
ここからは、実家じまい(家じまい)の具体的な手順を解説します。
遺品整理と不用品の処分方法
家じまいで最も時間と労力がかかるのが遺品整理です。自分たちで行うか、専門業者に依頼するかをまず決めましょう。
- 自分たちで行う場合 費用を抑えられますが、時間と体力が必要です。遠方に住んでいる場合は特に大変です。
- 遺品整理業者に依頼する場合 費用はかかりますが、仕分けから不用品の処分、清掃まで一括で任せられます。3LDKで20万円~60万円程度が費用の目安です。
不用品の処分方法は主に3つです。
- 買取業者に売る 骨董品やブランド品、まだ使える家電などは専門業者に査定を依頼しましょう。
- 寄付する 衣類や本などは、NPO団体などに寄付することで社会貢献にも繋がります。
- 自治体のルールに従って処分する 粗大ごみや一般ごみとして、地域のルールを守って処分します。
家の解体工事の流れと業者選び
家を更地にして売却する場合や、土地を別の用途で使う場合は解体工事が必要です。
解体工事の流れ
- 解体業者に見積もりを依頼し、契約する。
- 近隣への挨拶回りを行う。
- 電気・ガス・水道などのライフラインを停止・撤去する。
- 足場を組み、養生シートで覆う。
- 建物の解体、基礎の撤去を行う。
- 廃材を分別・搬出し、土地を整地する。
- 建物滅失登記を法務局に申請する。(解体後1ヶ月以内)
業者選びのポイント
解体費用は業者によって差があるため、必ず複数の業者から相見積もりを取りましょう。見積もりの内訳が明確で、質問に丁寧に答えてくれる業者を選ぶことが大切です。また、「建設業許可」や「解体工事業登録」の有無も必ず確認してください。
家の売却と不動産会社選び
実家を売却する場合、「古家付き土地」としてそのまま売るか、「更地」にしてから売るかの選択肢があります。
- 古家付き土地として売る 解体費用がかからないメリットがありますが、買い手がつきにくい場合もあります。
- 更地にして売る 買い手が見つかりやすい傾向にありますが、解体費用がかかり、固定資産税が高くなる可能性があります。
どちらが良いかは、物件の立地や状態によります。信頼できる不動産会社に相談し、査定を依頼するのが最善です。複数の会社に査定を依頼し、査定額の根拠や販売戦略を比較検討して、パートナーとなる会社を選びましょう。
各種契約の解約と行政手続き
家の片付けや処分と並行して、各種契約の解約手続きを進める必要があります。手続き漏れがないよう、リストにして管理しましょう。
- 電気、ガス、水道
- 固定電話、インターネット回線
- NHK
- 新聞、牛乳などの定期配達サービス
- 火災保険、地震保険
- 介護サービス
- クレジットカード、銀行口座の整理
親が世帯主だった場合は、役所で世帯主変更の手続きも必要です。
【墓じまい】お墓の整理手順と費用
次に、墓じまいの手順と費用について詳しく見ていきましょう。墓じまいは**「改葬(かいそう)」**とも呼ばれ、行政手続きが必要になります。
新しい納骨先の種類と選び方
墓じまい後のご遺骨をどこに納めるか、新しい納骨先を先に決めておく必要があります。主な選択肢と費用相場は以下の通りです。
- 永代供養墓(えいたいくようぼ) 寺院や霊園が永代にわたって供養・管理してくれるお墓です。他の方の遺骨と一緒に祀られる「合祀墓(ごうしぼ)」なら5万円~30万円、個別のスペースがある「集合墓」なら20万円~80万円が目安です。
- 納骨堂 屋内に設けられた納骨スペースです。ロッカー式、仏壇式など様々なタイプがあり、費用は30万円~150万円程度です。天候に左右されずお参りできるのがメリットです。
- 樹木葬 墓石の代わりに樹木をシンボルとするお墓です。費用は20万円~80万円程度で、自然に還りたいという方に人気です。
- 散骨 粉末状にした遺骨を海や山に撒く方法です。業者に依頼する場合、5万円~30万円程度が目安です。ただし、散骨できる場所には制限があります。
- 手元供養 遺骨の一部を小さな骨壺やアクセサリーに入れて、自宅で供養する方法です。
墓地管理者への連絡と離檀交渉
新しい納骨先が決まったら、現在お墓がある寺院や霊園の管理者に墓じまいをしたい旨を伝えます。
特に菩提寺(ぼだいじ)の場合は、「離檀(りだん)」、つまり檀家をやめることになります。これまでお世話になった感謝を伝え、円満に話を進めることが大切です。この際に「離檀料」を求められることがあります。法的な支払い義務はありませんが、感謝の気持ちとしてお布施(5万円~20万円程度)を包むのが一般的です。
改葬許可申請の必要書類と流れ
墓じまいには、市区町村長の「改葬許可」が必要です。手続きは以下の流れで進めます。
- 「改葬許可申請書」を入手する 現在お墓がある自治体の役所や、ウェブサイトから入手します。
- 「埋葬(収蔵)証明書」をもらう 現在の墓地管理者に依頼し、改葬許可申請書に署名・捺印してもらいます。
- 「受入証明書(永代使用許可証)」をもらう 新しい納骨先の管理者に発行してもらいます。
- 「改葬許可証」を申請・受領する 上記3つの書類を現在の墓地がある自治体の役所に提出し、「改葬許可証」を発行してもらいます。
墓石の解体撤去と閉眼供養
「改葬許可証」が発行されたら、いよいよお墓の撤去工事です。
まず、ご遺骨を取り出す前に、僧侶にお経をあげてもらう**「閉眼供養(へいがんくよう)」**(魂抜きとも言います)を行います。これは、墓石に宿った故人の魂を抜き、ただの石に戻すための儀式です。
その後、石材店に墓石の解体・撤去と、更地に戻す作業を依頼します。費用は墓地の広さや立地によりますが、1㎡あたり10万円~15万円が目安です。工事が完了したら、「改葬許可証」を新しい納骨先に提出し、ご遺骨を納めます。
相続問題と関連する法的手続き
実家じまいや墓じまいは、相続問題と密接に関わっています。法律の知識も押さえておきましょう。
実家の相続登記と名義変更
親が亡くなり実家を相続した場合、その不動産の名義を親から相続人へ変更する**「相続登記」**が必要です。
2024年4月1日から相続登記は義務化されており、正当な理由なく怠ると過料が科される可能性があります。手続きは法務局で行いますが、複雑なため司法書士に依頼するのが一般的です。費用は登録免許税(固定資産税評価額の0.4%)と、司法書士への報酬(10万円前後)がかかります。
墓の承継者と墓じまいの権利
お墓や仏壇、系譜などは**「祭祀財産(さいしざいさん)」**と呼ばれ、一般的な相続財産とは区別されます。祭祀財産は分割されず、一人の「祭祀承継者」が引き継ぎます。
墓じまいを最終的に決定できる権利を持つのは、この祭祀承継者です。慣習的に長男が継ぐことが多いですが、遺言や親族間の話し合いで決めることも可能です。誰が祭祀承継者なのかを事前に確認しておくことが、トラブル防止に繋がります。
空き家対策特別措置法と固定資産税
誰も住まない実家を放置すると、様々なリスクが生じます。特に注意したいのが**「空き家対策特別措置法」**です。
管理不全な状態で放置された空き家は「特定空家」に指定されることがあります。特定空家に指定されると、住宅用地の特例が適用されなくなり、固定資産税が最大で6倍に跳ね上がる可能性があります。さらに、行政からの改善命令に従わない場合は、過料や行政代執行(強制的な解体)の対象となることも。実家じまいを先延ばしにせず、早めに対策を講じることが重要です。 (参考:国土交通省 空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000035.html)
親族間トラブルの事例と回避策
実家じまい・墓じまいで最も避けたいのが親族間のトラブルです。ここでは、よくある事例とその回避策をご紹介します。
兄弟姉妹との費用分担の決め方
**「誰がいくら費用を負担するのか?」**は、最も揉めやすいポイントです。
- 「家を継ぐ長男が多く負担すべきだ」
- 「相続分に応じて公平に分担すべきだ」
- 「親の介護をあまりしなかった人が多く出すべきだ」
など、様々な意見が対立します。これを避けるためには、必ず全員が揃った場で話し合い、決定事項を書面に残すことが有効です。「実家じまい・墓じまいに関する合意書」といった形で、誰が何を、いくら負担するのかを明記し、全員が署名・捺印しておきましょう。
本家や親戚への報告と合意形成
特に墓じまいは、自分たちの家族だけの問題ではない場合があります。本家や日頃付き合いのある親戚には、必ず事前に相談しましょう。
「先祖代々のお墓をなくすとは何事だ」と反対されるケースも少なくありません。なぜ墓じまいが必要なのか、自分たちでは管理が難しい現状や、将来子どもたちに負担をかけたくないという思いを誠実に伝え、理解を求める姿勢が大切です。
離檀料をめぐるお寺との交渉術
一部の寺院から、数百万円といった高額な離檀料を請求されるトラブルが報告されています。
前述の通り、離檀料に法的な支払い義務はありません。あくまで「お布施」であり、感謝の気持ちです。もし法外な金額を請求された場合は、まず冷静に「内訳を教えていただけますか」と尋ねてみましょう。それでも話がまとまらない場合は、弁護士や行政書士などの専門家に相談することを検討してください。一人で抱え込まず、第三者に入ってもらうことが解決の糸口になります。
情報が多すぎて混乱してしまった方、もっと体系的に知識を整理したい方のために、おすすめの本や専門家の選び方をご紹介します。
実家じまい・墓じまいがわかる本
断片的なネット情報だけでなく、一冊の本を通して全体像を学ぶことは非常に有効です。特に評価の高い本を2冊ご紹介します。
- 『いちばんわかりやすい実家じまいと墓じまいの手続き・費用・相続』 図解が多く、初心者でも非常に分かりやすいと評判の一冊です。手続きのチェックリストや書類の書き方見本も豊富で、まさに「教科書」として手元に置いておきたい本です。
- 『わが家の家じまい』 「家じまい」に特化し、片付けのノウハウから空き家の活用法まで、実践的な情報が詰まっています。体験談も豊富で、自分に近いケースを見つけやすいのが特徴です。
相談先専門家の一覧と役割分担
実家じまい・墓じまいでは、様々な専門家の力が必要になります。誰に何を相談すれば良いのか、役割を整理しておきましょう。
- 司法書士 不動産の相続登記や、成年後見制度の手続きを依頼します。
- 税理士 相続税の申告や、不動産売却時の税金に関する相談に乗ってくれます。
- 弁護士 親族間のトラブルや、お寺との交渉がこじれた場合の最終的な相談先です。
- 行政書士 改葬許可申請など、行政手続きの代行を依頼できます。
- 不動産会社 実家の査定や売却を任せます。
- 遺品整理業者 家の片付け全般を依頼します。
- 石材店 墓石の解体・撤去工事を依頼します。
H3.信頼できる業者の見分け方
どの専門家や業者に依頼するにしても、信頼できる相手を見極めることが重要です。以下のポイントをチェックしましょう。
- 相見積もりを取る 必ず2~3社から見積もりを取り、料金とサービス内容を比較検討してください。
- 見積書の内訳が明確か 「一式」ではなく、作業項目ごとに料金が明記されているかを確認しましょう。追加料金の条件も事前に確認しておくことが大切です。
- 許認可や資格を持っているか 解体業者なら「建設業許可」、遺品整理業者なら「古物商許可」や「一般廃棄物収集運搬業許可」など、必要な許認可の有無を確認しましょう。
- 実績が豊富で、評判が良いか 公式サイトの施工事例や、インターネット上の口コミを参考にしましょう。
まとめ
実家じまいと墓じまいは、時間も費用も、そして精神的な労力もかかる大きなプロジェクトです。しかし、将来の不安を解消し、子どもたちの世代に負担を残さないために、避けては通れない道でもあります。
この記事で解説したポイントを最後にもう一度確認しましょう。
- 最優先事項は「親族との合意形成」。費用負担や進め方を事前にしっかり話し合う。
- 全体の流れと費用を把握し、計画的に進める。特に家じまいは数百万円単位の費用がかかることも。
- 法的な手続き(相続登記、改葬許可申請)を漏れなく行う。
- 空き家の放置は、固定資産税の増額など大きなリスクに繋がる。
- トラブルや不明点があれば、一人で抱え込まず専門家に相談する。
実家じまいや墓じまいは、家族の歴史と向き合い、次の世代へと繋ぐための大切なステップです。この記事が、あなたの「はじめの一歩」をサポートできれば幸いです。
writer:kitamura